一年を24に分けたものを二十四節気と呼び、
それをさらに3等分ずつにしたものを七十二候と呼びます。
ひとつの節気で大体15日間、ひとつの候で約5日間です。
12月17日~12月21日頃は、二十四節気で言うと「大雪」、
七十二候は「鱖魚群(さけのうおむらがる)」と名付けられています。
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二十四候の名の通り、全国的に大雪に見舞われ、
厳しい寒さとなっていますね。
今回の七十二候は鮭のこと。
鮭の群れが川を上る時期です。
七十二候では「鱖」という漢字で鮭を表していますね。
日本では「鱖」は鮭という意味でも使われますが、
中国ではスズキ科の淡水魚(ケイギョ)のことを指すようです。
さて、古来から日本に鮭はいたのでしょう。
奈良時代に、地域の歴史・伝承・事物などを記した『風土記』という書物が作られ、
5つの国(今でいう県)の『風土記』が現存しているのですが、
出雲国(島根)と常陸国(茨城)の『風土記』に、
鮭に関する記述が出てきます。
また、鎌倉時代に作られた『宇治拾遺物語』には、
鮭に関して面白い話が載っています。
タイトルは「大童子、鮭盗みたる事」
訳すなら、「鮭を盗んだじいさん」となります。
タイトルには大童子とありますが、
ここでは大童子のような髪型をした老人を指しています。
話の内容を要約すると、
鮭(塩鮭のこと)を馬に積んで、越後(新潟)から京都に向かっていたところ、
老人が馬の列に駆け込んできて、
鮭を2本引き抜いて懐に入れ、盗んでしまいます。
鮭を運んでいた男が「なぜ鮭を盗んだのか」と問い詰めると、
老人はしらを切ります。
老人はのらりくらりと言い訳をし、押し問答になるのですが、
男が老人の服を無理やり脱がせると、腰に鮭をぶら下げているのがバレてしまいます。
男が「ほらみろ」と老人に詰め寄ると、
老人は、「なんてことをするのだ!こんな風に裸にして鮭を探せば、
どんな高貴な女性だってサケを持っているものだ!」
といって反論します。
すると、様子を見ていた周りの人たちは一斉に笑ったというのです。
現代人にはこの話のオチは分かりづらいですが、
女性が持っているサケとは「裂け」のこと。
つまり、女性の陰部のことを言っているのです。
おじいさん下品!セクハラ!
と思われるかもしれませんが、
このやり取りを見ていた周囲の人たちが一斉に笑っているのがポイントです。
ここにはおそらく女性も混じっていたでしょう。
実は、日本は文化的に、性的な話題にはかなり大らかだったようです。
例えば江戸時代に流行した春画(男女の交わりを描いた浮世絵)も、
男性が一人でこっそり見たというわけではないらしく、
女性も春画を楽しんだようです。
そもそも日本の国自体、
イザナギとイザナミという神様が男女の交わりをすることで生まれたわけですしね。
そして神話には、女性の陰部に関する話が複数載っています。
その一つをご紹介します。
ある美しい女性が便所で用を足していると、
急に下から陰部を矢で刺されてしまいます。
女性が驚いていると、
矢は麗しい男性に姿を変えて二人は結ばれ、
生まれた娘が初代・神武天皇の后になったというのです。
矢に変化していたのは、
奈良県大神神社の神として有名な大物主でした。
こういった話が、日本の成り立ちを記した正当な歴史書である『古事記』に載っているのです。
とにかく、日本人は性的な話題にもかなりオープンだったのです。
現代人が持っている性的なことをタブー視する感覚は、
西洋・キリスト教から来た価値観ですね。
学校の古典では、今日ご紹介したような作品はなかなか扱わないので、
昔の人の書く文章は堅くて真面目、つまらないという印象を
お持ちの方もいらっしゃいますが、
日本の古典世界は、本当はとてもユニークで面白いのです。