一年を24に分けたものを二十四節気と呼び、
それをさらに3等分ずつにしたものを七十二候と呼びます。
ひとつの節気で大体15日間、ひとつの候で約5日間です。
7月12日~7月16日頃は、二十四節気で言うと「小暑」、
七十二候は「蓮始開(はすはじめてひらく)」と名付けられています。
* * *
蓮の花が開き始める時期になりました。
今日は蓮に関するお話です。
蓮の葉のことを「荷葉(かよう)」と言いますが、
実は、荷葉はお香の世界ではよく耳にする言葉。
前回のブログでも紹介しましたが、
線香のように燃やすのではなく、温めて使うお香のことを
薫物(たきもの)と言います。
薫物には代表的な6種があり、
"六種(むくさ)の薫物”と呼ばれています。
その六種の薫物のうちの一つが、
荷葉と名付けられたお香なのです。
蓮の花に似た香りと表現される荷葉は、
夏の薫物です。
さて、
『源氏物語』には、
光源氏が自分の妻たちに、薫物を調合させる場面があります。
(「梅が枝」という巻に出てくる場面です)
その際、荷葉の薫物を調合したのは、
花散里(はなちるさと)という女性でした。
当時、光源氏は六条院という屋敷に住んでいましたが、
六条院は大きく4つに分かれていました。
その4つは、それぞれ春、夏、秋、冬をイメージして作られており、
夏のパートに住んでいたのが花散里だったのです。
温厚で慎ましやかな花散里。
なぜ彼女に割り当てられたのが夏だったのでしょう?
実は、花散里という名前は、
光源氏が詠んだ和歌、
「橘の香をなつかしみほととぎす花散る里を訪ねてぞとふ」
に由来します。
現代語訳するなら、
橘の花を懐かしんで飛んでくるホトトギスのように、
私も橘の花が散るこの屋敷を訪ねてきた。
という感じの意味になります。
つまり、花散里の花とは、橘の花のこと。
橘の花が咲くのは初夏。
ですので、花散里という女性の名前には、
最初から夏という季節感が込められているのです。
だから、
光源氏は夏のパートに花散里を住まわせましたし、
薫物の調合の場面で、花散里は夏の香である荷葉を作ったのです。
このように見ると、
『源氏物語』ではキャラクター設定の統一感を
大切にしていることがよく分かりますね。